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SALA SUSU Paper

SALASUSUで働く“ひと”に
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「不完全な自分にこそ、価値がある」

Date:

Writer: ツアー部門マネジャー橋本 沙耶加SAYAKA HASHIMOTO

「貧困について学ぶためにカンボジアに来たけど、幸せそうに働く彼女たちを見て貧困が何かわからなくなった」

私たちの工房に訪れた高校生の言葉だ。工房で働く作り手の女性たちの姿を目の当たりにすると、価値観が大きく揺さぶられる。貧困、豊かさ、幸せの定義とは何か。そんな質問が学生たちから出てくることも多い。その問いに、私は答えを持っていない。そう素直に伝え、学生たちと一緒に考える。彼ら、彼女たちが、自ら感じたことを通して一生懸命考え、さまざまな意見を自分の言葉で語っていく。型に縛られない、豊かな学びの場を共につくれていることがとても嬉しい。

完璧な先生像にとらわれていた教師時代

昔から、元気でとても明るい性格だった。親が転勤族だったため5回転校したがどこにいても友達は多かった。場の空気や相手の気持ちを読み、人と良い関係性を作る。常に新しい場所で生き抜くため、無意識のうちにそんなスキルが身についたのだろう。中高は部活に明け暮れ、恩師のすすめでなんとなく教育学部のある大学に進んだ。

卒業後は小学校教師として働きはじめた。教師としての3年間は、今思い出してもとても辛かった。「教師=完璧」という自分が作り上げた先生像に支配され、取り柄のない自分は完璧な先生にならなければ誰からも認められないと思い込んでいた。

子どもたちの前で失敗など許されないし、わからないと言えない。他のクラスと違うことはしてはいけない。これまで培ってきた周りを察知する力も仇となり、常に保護者やほかの先生の顔色を見ながら毎日を過ごした。自分が疑問に思うことがあっても、周囲の目を気にして、とにかくカリキュラム通りに教え続けた。これで本当に良いのかという思いも常にあったが、当時はそれに向き合う余裕もなかった。そして、型にはめようとすればするほど子どもたちは反発し、教室内で暴れ回った。クラスはほぼ学級崩壊状態だった。

若い新卒教師として明るく元気に振舞わねばと、1年間なんとか教壇に立ち続けたが、もう限界だった。終業式も間近の3月、通知表に子どもたち一人一人の良いところが書けなくなった。1年間酷使してきた体と心が悲鳴をあげ、2週間学校を休んだ。

その後なんとか復帰したが、完全に自信を喪失し、正直一刻も早く教師を辞めたかった。しかし、辞めてもこんな自分は何もできないかもという不安と、苦労して子どもを大学に送り、教師になったことを誰よりも喜んでくれた両親のことを思うと、言い出せなかった。教師になって3年が経とうとする頃、勇気を振り絞り泣きながら親に教師を辞めたいと打ち明けた日のことは今でも忘れない。

結局、丸3年で教師をやめた。とにかく今の環境から、今の自分から逃げ出したくて、偶然行った講演会で出会ったカンボジアに行くことを決めた。

1年ほかの団体で働いた後、SALASUSUに参画しツアー部門で働くことになった。学校という当時の自分にとっては閉鎖的な環境から離れ、穏やかな空気が流れるカンボジアで少しずつ心が元気になりつつあったが、新しい仕事、新しい役割の中でまた自分のできないことばかりに目が行った。学生の無給インターンとほぼ同じ仕事しかしていないように感じる自分が、給料をもらって働いて良いのだろうか。全く仕事についていけない自分がここにいていいのだろうか。常に不安で、いつもほかのスタッフに対して笑顔で振る舞いながらも、心の奥では孤独だった。だからといって、教師時代から何も変わらない自分で日本に帰ることは恥ずかしくてできなかった。

ありのままの自分を受け入れてくれた工房の女性たち

そんな中、私を救ってくれたのは、工房の女性たちだった。

彼女たちとはすぐに仲良くなったが、特に仲が良かったのは、トランという作り手。「さやか!元気?」「もうご飯たべた?」「彼氏できた?」ーー工房に行くとその場いっぱいに響きわたる声と弾けるような笑顔でいつも話しかけてくれた。お互い言葉もほとんど分からなかったが、気を使わない友達のように一緒に笑い合えた。日本からのお客さんを連れて彼女の家に訪問する機会も多かったが、トランの家族もみんな「さやかが来てくれると嬉しい」「いつでも遊びにおいで」と本物の家族のように接してくれた。

学校でもオフィスでも、人の目だけを気にして居場所がなく、いつもひとりぼっちに感じていた。しかし、どんなときも分け隔てなく接してくれる作り手の女性たちに囲まれ、工房には自分の居場所があった。ただ「さやか」というありのままの自分が、この場所では受け入れられ、愛されていることに、心から安心できた。

女性たちと接する中で、自信も、何の取り柄もない自分が、何か彼女たちの力になれるとも思わなかった。私にとって彼女たちは共に働く仲間であり、大好きで大切な友人だった。だからこそ、日々工房で彼女たちがひたむきに働く姿や、苦しい過去を抱えながらも今は笑顔で真っ直ぐに生きている姿を見て、少しずつ、彼女たちのように自分も一緒に成長してみたい、変わりたいと自然に思えるようになっていった。

弱さをさらけ出す勇気がもたらすもの

そんなとき大きな転機となったのは、工房で学校向けのスタディツアーが増えはじめたことだ。SALASUSUでは年間2,000人ほどの訪問客を工房で受け入れているが、約半数が中高生。教師の経験を持つ自分が、先生たちの窓口となりプログラムを進めることになった。

同じ経験を持つ先生たちとはすぐに打ち解けることができた。先生たちとはさまざまな話をしたが、打ち合わせを進めていく中で「橋本さんはなぜ教師を辞めたんですか?」「なぜカンボジアに来たんですか?」と、率直に質問を投げかけられることも多かった。

その問いには、いつも答えに詰まった。ぼろぼろだった教師時代。過去の弱い自分を見せることは恥ずかしく、怖くもあった。

担当クラスが学級崩壊し、体を壊して学校に行けなくなったこと。当時の環境から逃げたくて、カンボジアに来たこと。自分には何の取り柄もないと思い込み、不安でたまらなかったこと。

最初は泣きそうになりながらも、少しずつ、少しずつ話した。先生たちはじっくりと耳を傾けてくれた。そして、話を聞き終わると、今度は先生たちが、「実は私も」と抱えている苦しさや辛さを打ち明けてくれた。

「生徒にとって1番意味のあることを考えたいが、カリキュラムとの兼ね合いで実現できないことが悲しい」「いつも保護者の目や学校のルールばかりを気にしてしまい辛い」。

自分自身が教師時代苦しんだ経験と重なり、その苦難が手に取るように分かった。そして先生たちとお互いの辛さを共有したことで、より信頼が深まっていくのを感じた。自分自身も苦しい過去を言葉にして人に話すことで、少し楽になった気がした。

そんなことを繰り返すうちに、「橋本さんと話せてよかった」「橋本さんとより良い授業を一緒に作ることに挑戦したい」と、自分のことを認め、選んでくれる先生も増えていった。

教師時代の経験は本当に辛く、完璧にできない自分には価値がないと、不安に思い続けてきた。でも、そんな自分が、勇気を持ってありのままをさらけ出す姿が共感を生み、人を勇気づける。さらにその過程の中で、誰よりも自分自身が周りに励まされ、弱い自分を少しずつ認められるようになっている。こんな私でも誰かの力になれるのかもしれない、ありのままの自分にも価値があるのしれないと、小さな自信を感じはじめた。

不完全な自分にこそ、価値がある

そう思えてからは、工房を訪れる学生にも少しずつ、自分の失敗や弱さを話すようになっていった。

とても印象的な出来事がある。とある学校の高校1年生を受け入れた時のことだ。海外で働くキャリアについて触れてほしいという要望で、1時間ほど生徒たちに話をした。学生時代やりたいことが見つからずに劣等感を感じたこと、親の期待を背負ってなかなか教師をやめられなかったこと、できない自分をいつも否定してしまうこと。そんな私の話を聞き、「完璧に見える大人にもたくさんの失敗や不安があると知ってほっとした」と、自分の悩みをこっそり打ち明けてくれる学生もいた。

その後、受け入れた学校の先生からメールが届いた。「SALASUSUでの橋本さんのお話、また工房で働く女性たちの話を聞いて、実は自分の進路を決めた生徒もいます。その生徒は長年ずっと国際協力に関わりたいという思いがありましたが、周りの期待やしがらみで理系を選んでいました。しかし、今回の訪問や橋本さんの講演を通じ、やっぱり文系に行って今回目にしたような活動がしたいと、その日の夜に涙ながらに話してくれました。生徒の人生が大きく動いたようです。橋本さんには感謝の気持ちしかありません」。

まさに、これまでの葛藤や不完全さも含めて、ありのままの自分の姿が学生の背中を押せたのだと、言葉にならない嬉しさがあった。ずっと自分には取り柄がないと不安に思い続けてきたが、これがまさに、自分が提供できる自分らしい価値なんだと、心から思えた瞬間だった。そして何よりも、彼女が周りの声にめげず勇気を持って決断したことに、私自身も励まされた。

今度は自分が生徒たちを励ます側に

今でもまだ、自分を誰かと比べたり、できないことばかりに目が向き不安に苛まれることもある。それでも、そんな弱い部分も含めて自分であり、自分にまるごと価値があるのだと思えるようになった。

そして、その背中を押してくれたのは、トランをはじめとする工房の女性たちだった。ありのままの自分が受け入れられ、心から安心できる場所があったからこそ、弱さを見せる勇気を持つことができた。彼女たちが辛い過去も丸ごと受け入れ、ポジティブなエネルギーに変えている姿に、私もそう生きてみたいと思った。そして、彼女たちが私に変わるきっかけをくれたように、今度は自分が、彼女たちと一緒になって生徒たちに一歩を踏み出すきっかけをつくっていきたい。取り柄なんてなくても、誰もがありのままの自分を認め、大切にできるように。教師時代とは違った形で、これからも学びの場をつくっていけることが、とても楽しみだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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Writer

ツアー部門マネジャー橋本 沙耶加SAYAKA HASHIMOTO

東京都の公立小学校教諭の経験を経て、2016年よりSALASUSUに参画。 ツアー参加者との出会いを通じて互いの人生をエンパワメントし合ったり、チームメンバーやお客さんと共に、ツアーコンテンツの開発などのサービスを提供するまでの過程にやりがいを感じている。キックボクシングにはまり中!

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