【SALASUSU Paper vol.2】「自分を大切にして生きられる」ことを目指して

43名の作り手が働くSALASUSU(サラスースー)の工房。良い品質のものをつくることに加え、彼女たちが「自分を大切にして生きられる」ことを目指し、成長を支えている。

私たちがともに働くのは、最貧困家庭出身の女性たち。貧しい環境の中、両親や男性、土地の規範が絶対とされる農村で、自分が意図せぬ方向に物事が決められたてきたことも多い。家族を支えるため学校を辞めざるをえなかった。給料が高いから危険な仕事を選ばざるをえなかった。結婚相手を自分で決めることができなかった。

その過程で「仕方ない、どうせ私なんて」と自信をなくし、自分の人生は自分のものであり自ら変えていけるものだという意識が薄れていく。ある女性は工房に来てすぐの頃、「お昼ご飯に何を食べたい?」と聞かれても、ただ「分からない」としか答えられなかったという。

そんな女性たちが工房での時間を通じて、自分を大切にし、自ら人生を動かしていくための自信とスキルを育めるよう、様々なトレーニングやカウンセリングを行っている。

答えのない難しさ、良い卒業とは何か

私はカンボジアの工房で働き初めて2年になる。振り返ると、もちろん嬉しい瞬間もあるが、たくさん悩み、壁にぶつかった、苦しい2年間だった。
工房で働く女性たちの人生について、常に答えのない問いに向き合う。その解決に前例もなければ、問題解決の型があるわけでもない。考えても考えても、どうすべきか分からないことが数え切れないほどある。

特に力を入れていたのは卒業支援だった。女性たちは2年間でスキルや自信を身につけ工房から卒業し、新しい就職先に羽ばたいていくことを目指す。多様な生き方を知るための就職先訪問や町探検、卒業生インタビューや個別のカウンセリングなど、様々な形で彼女たちの卒業をサポートしていた。

私が工房で働き初めて、初めて卒業したのがソリン(仮名)という女性だった。彼女は将来村で小さなサロンを開くことを目指し、シェムリアップのスパに就職して経験を積みたいと言った。村から街へ、観光客にも有名なスパへの就職。給料も工房で働くより良くなる。モデルケースのような卒業に私もスタッフも喜んだ。当初家族は反対したが一緒に説得を重ね、ついに彼女は街で仕事を始めた。

しかし1ヶ月後、彼女は仕事が辛いから辞めたいとスタッフに相談してきた。聞くと、スパで行うマッサージには筋力がいるが、自分にはその力がないから疲れてしまうという。

せっかく良い場所に就職したのにそれで辞めてしまうのはもったいない。きっとすぐ慣れるから、もう少し続けてみたらどうか。なんとか彼女を引き止めようとスタッフと説得に当たった。

しかし、なぜ続けないのかと問い続ける私たちの前で彼女は次第に口数も少なくなり、最終的には連絡が途絶えた。スパのスタッフから、後日彼女が仕事を辞め村に戻ったと聞いた。

せっかく手にした機会だったのに、なぜ頑張れなかったのだろう。どんなサポートがあったら、彼女は続けられたのだろう。正直、彼女の卒業はうまくいかなかったと、落胆した。

その後も街への卒業を推し進め、何人かは就職したが、またすぐ辞めてしまった。そんなケースが続き、女性たちはそもそも街に就職にしたがらなくなった。トレーニング中も上の空の彼女たちを前に、これは一体何のためにやっているんだろうと、私自身も次第に分からなくなっていった。彼女たちのサポートをするはずが何の役にも立てていないという申し訳なさと、何をやってもうまくいかない毎日に、無力感でいっぱいだった。

助ける対象から、尊敬する一人の女性へ

転機となったのは、あるツアーの受け入れだった。日本の企業から10人が2週間カンボジアを訪れ、リーダーシップを養う。その中で参加者は女性たちの家にホームステイをすることになった。コーディネーターだった私は、どんな時間になるのか、彼女たちは参加者に何かインパクトを与えられるのかと、正直心配していた。

しかし、壮絶な人生を送りつつも、たくましく、笑顔で生きている彼女たちのあり方は、参加者の価値観を大きく揺さぶった。

「一緒に過ごしていて、目の前の光景がとんでもなく平和で、幸せだと感じる瞬間が幾度となくあった」「多くを持たない生活から、何がもっとも大切なのか考えるきっかけになった」と、涙を流している人もいた。

その光景は衝撃的だった。
こんなにも、人の心を打つ力が彼女たちにあるのか。
彼女たちの見方が大きく変わった瞬間だった。

私はこれまで、きっとどこかで「彼女たちを助けてあげないと、導いてあげないと」と思っていた。でも、これだけ人の心を動かす力を持つ彼女たちは、そんな弱い存在ではなかった。

一人の人として彼女たちを心から尊敬し、スタッフと作り手、という関係ではなく、私と彼女はお互いに対等な存在なんだと、彼女たちが持つ力を心から信じられた出来事だった。

一つ一つの決断が、意味あるものになるように

ソリンが卒業して約1年後、彼女から他の作り手に連絡があった。

聞くと、彼女はスパの仕事を辞め村に戻ったあと、家の前に小さな屋台を開き、家族を支えるために生活費を稼いでいたという。しかし、そのうちに当時の恋人との妊娠が発覚。婚前交渉は認められないカンボジアで中絶は止むを得ず、その後は村八分にされ、逃げるように郊外に移った。

新しい土地でもなんとか仕事を見つけて暮らしていたが、最近シェムリアップに戻り、親戚の元で仕事をしている。もう一度サロンを開くという夢に向け、スキルを学べる職業訓練所に入りたいと、友人である他の作り手に情報がないか連絡してきたのだという。

その話を聞いた時、彼女がこれまで歩んできた道の壮絶さに胸が傷んだ。

同時に、彼女がここまであきらめることなく人生を生き抜いてきた、そのたくましさを心から尊敬した。彼女にも、ものすごい力があったのだと思わされた。

改めて彼女の卒業を振り返ると、当時は彼女がもつ力を心から信じきれていなかったから、仕事を辞めるという彼女の選択に向き合えなかったのかもしれない。無意識のうちに「街の良い就職先に卒業する」「卒業先でいきいきと働いて成長する」という私たちが決めた理想の卒業を押し付けていた。私たちが思う良いキャリアを教えてあげないと、と。そのせいで、辞めたいという彼女の選択に向き合い、それを選んだ彼女の声に心から耳を傾けることができなかった。

街での仕事を辞め、村に戻るという決断が良かったか、悪かったかは、私たちが決めることではない。そして、その1回の決断で人生の全てが決まるわけでもない。工房を卒業した後も、数え切れないほどの決断を繰り返して、前に進んでいく。だからこそ、彼女がそれぞれの決断をする時、どれだけ自分で納得して決められたか、その後その経験からどれだけ豊かに学べたか、そのプロセスを支えることがもっとも大切なことではないか。

あるべき、サポートの形

思い返すと、自分もそうだった。自分らしいキャリアを選びたいと日本からカンボジアに転職したが、正直辛いことしかないというくらい、苦しかった。

本当にこの選択がよかったのか、どうやったらこの苦しさを抜け出せるのか分からず、誰かに正解を教えて欲しいと思うこともあった。でも結局は、自分が決めたことに責任を持って向き合い、頑張るしかない。

けれどそれは、一人で頑張るということではなかった。慣れない土地で孤独に感じたこともあったが、一緒に働く仲間や、家族、友人、いろんな人に支えられた。時に「助け」としてではなく、ただ話を聞いてくれること、ただ一緒にいて笑ってくれること、その存在自体が力になった。

きっと、彼女たちにとっても同じだ。

彼女たちがこれまで過ごしてきた環境は、彼女たちが本来持つ力を発揮することを阻んできた。だからこそ、自分の意思に気持ちを傾けたり、長期的に物事を考え、落ち着いて選び取っていくことが苦手だったり、それをするだけの自信が、自分の中に持てないことが多い。

しかし、彼女たちには自分の意思があり、自分で選び取る力があり、頑張る力がある。私たちが正解を教える必要はないし、正解などない。
自分に力があるんだと本人が認識できるように、じっくり彼女たちの話を聞き、意思を引き出すこと。時にはただそばにいて、彼女たちが決めるプロセスを支えること。一度決めたら、その決断を全力で応援すること。

それが、彼女たちが自分を大切にして生きていくために、私たちのやるべきことだと、自分たちの役割を捉え直した。そして、何かを正しくやる必要はなく、目の前の彼女たちに真摯に向き合うことこそがもっとも大切だと腹落ちしたら、私自身もすごく楽になった。

コロナ禍でもたくましく生きる女性たち

今、コロナの影響で多くの女性たちが非常に苦しい状況にさらされている。

しかし、一軒一軒家を回って話を聞いていると、彼女たちは自ら様々なチャレンジを重ね、この状況をなんとか乗り越えようと、たくましく生きている。

「工房で働く前は今と同じくらい辛かった。とにかく家族のためにお金を稼がないといけなくて、やみくもに働いた。そして今、コロナの影響で夫は仕事を失い、お金がない苦しさはその時と似ているけれど、気持ちは少し違う。自分に今何が起こっているのか、この状況をどうやって乗り越えていくのかを、自分でちゃんと考えられている感じ。だから、しんどいけどなんとか乗り越えられると思える。頑張らないとね。」

そう話してくれたのは、作り手のリナ(仮名)。最初に会った時は疲れ切った雰囲気だったが、話したあとは少し元気と自信を取り戻したように見えた。最後には、お互いに「SUSU(がんばろうね)」と励ましあい、笑顔で別れた。彼女の姿に、私自身も励まされた。

この不安定な状況をどう生き抜くのか、誰にも正解は分からない。だからこそ、どう生きるのかを自ら考え、選んでいく必要がある。そうした中、どちらが助ける、助けられるではなく、お互いに応援しあって前に進んでいく。まさに彼女たちをサポートする時、こんな関係性でありたいと、思えた瞬間だった。これからも、そんな風に彼女たちに寄り添い、ともに成長していきたい。

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