良いトレーニングと愛のある職場が人の行動を変える

 

「やらなければいけないことがわかる」ことと「行動が変えられる」ことの絶望的な差

ダイエット産業は何故儲かり続けるのか。それはやらなくてはいけないことがわかっていても、自分では行動ができないからだ。その結果お金を付けて食事を管理してもらったり(ライザップ)、楽に儲けられる香りのする商品に手を出したり(各種ダイエット食品)、断食したりするのである。

自分で認めたくないが、認めざるをえないこと。それは正しいことがわかっただけで行動が変わるとは限らないという残酷な事実だ。

だから逆に他人の行動についても同じ目で見守ってあげる必要がある。ある人が望ましい行動が出来ていなかったからと言って、それは必ずしも「正しい行動がわかっていない」とは限らないという事だ。もちろんそこに躓いていることもあるだろう。ただ現実的に、「正しいことがわかった後のステップ」の方が行動の変容に大きな影響を及ぼしていることが多いのではないか。

エンジニアだから勉強しなきゃ。本を読まなきゃ。早寝早起きしなきゃ。経営者だから一人一人のスタッフの話を聞かなきゃ、現場に行かなきゃ。運動しなきゃ。家族に時間を使わなきゃ。いくらでも「やらなきゃ」いけないことはあふれているが、一つ一つ取り組んでいくしかないのだ。問題は「正しい行動を知らないこと」じゃない。仲間とともにそれにとりくむことだからだ。

 

行動変容のステップ

私たちはこの10年、カンボジアの農村でライフスキルトレーニングをしながら、この問題にずっと取り組んできた。時間を守る、チームメイトに良い言葉遣いをする。しなくてはいけないことは本当に10秒でも伝えられるようなこと。でも実際できるかどうかは簡単ではない。そんな中で僕らが「行動変容のステップ」として大事だと思うのが「良いトレーニング」と「愛のある職場」の二つである。詳しくは下記の図を見てみてほしい。

「HOWを理解」というのが「正しいことがわかる」ということだ。しかし、そこから習慣化までの長い谷を越えるのには、いくつものステップが大事である。

 

良いトレーニングとは体験と協働があるトレーニング

百聞は一見にしかず、そして百見は一つの経験に勝てない。これが体験の大事さである。その身につけたい望ましい行動を実際に体験してみて・具体的にはどういうことなのか・どれくらい簡単なのか・どれくらい気持ちよいのか・その中で生じる困難にどう取り組むのかを身体で体感してこそ、次の日から試してみようと思えるのである。

例えばうちのライフスキルトレーニングの中で人気なトレーニングの一つに「友達と良い関係を作りたかったら、友達の良いところを見つけて伝えてあげてください」というトレーニングがある。3秒くらいで伝えられるし、反論してくる人も少ないだろう。ただこれが伝えたところでどれくらいの人が実行するかといえば数%だろう。カンボジアの農村でやっても日本でやっても。

特にカンボジアの農村で小学校や中学校を中退した子たちにとっては「良いところってなに?お金持ちとか?」「伝えるって何?どう言ったらいいかわからないよ」となってしまいがちである。抽象的な思考や、コミュニケーションの経験が限られているためだ。

そこで実際に9マスのセルに良いところが書いてあるビンゴを配って、そこに友達の名前を書いてもらってビンゴをするというトレーニングをしている。ビンゴを楽しむうちに(楽しいというのは前提にもなる大事な価値観で、チクセントミハイのフロー体験にも通じる)、当たれば前に出てきて友達の名前を発表する。そこではじめて伝えた人も伝えられた人も「あっ」とおもう体験ができる訳だ。この「あっ」という体験が本当に大事で、AHA体験とでもいうか、ここで「気持ちよい」というのを体感してもらってこそ、次の日から試してみようと思える経験になる。

そしてこのアクティブラーニングを支えるのが協働という関係で、一人ではトライしてみることも、そもそも学ぶ理由を作ることも(学んでみたいと強く思うことも)難しい。何人もいればそこに知識・体験のムラがあり、その違いからお互いが学ぶ事が出来る。ここは深入りすると大変なことになるのでまたの機会に。

 

愛のある職場があってはじめて行動が定着する

では体験があるトレーニングだけで人は変わるのだろうか。いや、そうではない。多くの人にとって、自分の行動を変えるには、他者の愛が必要である。そもそも変えた方が良い行動について真摯に伝えてくれる人がいて始めて学ぼうという気持ちが起きることが多いだろう。実際トレーニングの後でちょっと行動を変えてみたことを見つけてくれる人、認めてくれる人、それに刺激を受けて変化してくれる人、色んな人が自分の周りにいてくれるからこそ、続くのだ。

ダイエットだって人に毎日記録を人に公開したり、皆でやった方が続きやすいということは色々な形で確かめられていることであるように。

ではどんな職場でも、「愛のある他者」がいるだろうか。お互いを思いフィードバックをする関係性が築けているだろうか。

残念ながらそれには世界はまだほど遠い状況だろうと思う。でなければ組織開発、システムコーチングなどがこれほど必要とされることはない。それどころか組織開発、システムコーチングを導入しようとすら思わない組織が大半だろう。これには様々な人たちが様々なアプローチで取り組んでいるが、まだ大きな努力が必要な分野である、というのが現実的だ。

 

「人の行動が変わること」「愛のある良い職場」の関係は鶏と卵でもある

希望があるとすれば、最初から愛のある良い職場はつくれなくとも、局所的にでも「人の行動が変わるのを応援しそれを実感したグループ」をうむことはできるという事だ。そしてその輪を広げていくことで職場の愛を育むことはそこまで荒唐無稽な話では無い。まずはそれを信じて企業内にライフスキルトレーナーの育成から始めていこうと考えている。

そこにあなたができることがある

そしてあなた自身も、「行動を変えること」の大変を痛感しながら、自分自身や周りの大切な人の行動を変えることを手伝っていくことができる。他人を手伝うことが先で、自分の行動が変わることも多々ある。簡単な道のりではないが、どうか私たちが大事にしている「すべての人は学ぶ事が出来る」という価値観を信じて変化の担い手になっていってほしいと心から願っている。

※冒頭の写真はトレーナーの変革をお手伝いする当団体の優秀なトレーナーたち